こんにちは。竹内です。
薄巻き珠(一般に真珠層の巻き厚が0.25mm以下と言われています)は、業者目線では「粗悪品」になりますので、安価に取引されます。
業者の中には薄巻き珠を好んで取り扱う人がいて、薄巻き珠にありがちな特徴をチャームポイントとして説明してお客様を納得させる術をもっています。
今回は簡単な実験を通して、注意喚起していきたいと思います。
こちらは粗悪品の核の画像です。粗悪品のため使用されませんでした。

核は淡水貝の貝殻を球体に加工したもののため、縞模様が入る場合があります。薄巻き珠の核にわかりやすい縞模様があると、明るい環境下で見たときに透けて見えることがあります。
ですが、一般消費者の方がそれに気づくことは難しく、販売員から説明がない限りその場で気づくことはないと思います。
ここに、キーボードのキーがあります。

これを核と仮定して、実験をしていきます。文字は縞模様だと思ってください。
このキーにセロテープを貼っていきます。セロテープは真珠層だと思ってください。真珠層が薄いということはセロテープの枚数が少ない、真珠層が厚いということはセロテープの枚数が多いと考えることができますね。
では、まず5枚貼ったものがこれです。

10枚がこれ

続いて20枚

続いて40枚

40枚貼ることで、「る」の文字がほとんど見えなくなりました。真珠の場合、核に縞模様があっても見えなくなることから、この状態が「安心巻き厚」の目安とされています。「る」以外の文字が見えていることは、申し訳ございません。見えていない体でお願いします。
では質問です。この中で単純に「物として」きれいだなと思うのはどれですか?
恐らく40枚を選ぶ人はほとんどいないと思いますがいかがでしょうか?
セロテープの枚数を重ねるほどノリの面や指紋が積み上げられ、透明度が落ち、ほぼ透明だったセロテープに色が感じられるようになります。真珠の場合はタンパク質の層が積み上げられることで透明度が落ち、色が感じられるようになります。アコヤ真珠の場合は黄色の色素を多く持つ性質のため、厚く巻くほどに黄色味、茶色味が出てきます。これを加工会社さんが色を抜いて透明度を上げて製品化するわけです。
では、汚い画像になって申し訳ありませんが、40枚のセロテープをキーから外した様子がこちらです。真珠層を核から切り離したつもりです。

気泡が入っていて、曇りも見られますね。この様子は真珠の場合、巻きの質に相当します。私がサササッと時間をかけず、気を遣わずに切り貼りした結果、このような質の悪い40枚重ねができあがりました。
余談:鑑定書の巻き厚測定値は、「セロテープの枚数」を表しているだけで、その質には触れておりません。一般に、質の悪い0.8mmよりも、質の良い0.4mmの方が評価は上なのはそういう理由です。
もし、このセロテープを重ねる天才がいるとしたら、きっとこんな仕上がりになると思います。

厚く巻いているのにとんでもない透明度。最強の状態です。
問題は「テープ5枚重ねの艶感と透明度」と、「未使用部分のテープの艶感と透明度」とを比較したとき、「この艶感と透明度を見てください」と注意をそちらに向けられて、「厚く巻いている方が価値は上」ということを教えられずに感想を求められ、「5枚重ねは10円で、未使用は100円です」とでも言われようものなら、5枚重ねがお買い得な気がしてきます。ましてや5枚重ねと40枚重ねでそれをやられると「5枚の方がいいよね」となると思います。
そうやって薄巻き珠は販売されていきます。
真珠のマイナスポイントの多くは真珠層が巻かれていく過程で発生します。よって、巻きが薄いということは、形がゆがみにくい、不純物が巻き込まれる可能性が低い、キズができるチャンスが少ない分キズが少ないです。「丸くてキズが少ないですよ。テリ(実際は表面光沢であってテリではない)もいいですよ。たまたま安く仕入れることができたのでお値打ちですよ。」と説明され、見た感じあながち間違ってはなく、印象の誘導効果も手伝って説明されたように見えることでしょう。
ですが、その理由こそ不明なのですが、私たち業者は経験から薄巻き珠の劣化スピードの速さを知っていて、それゆえ評価が低く、安価で取引されるわけです。
特に今のように真珠の価格が高騰している状況では気をつけたいポイントですね。
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