こんにちは。竹内です。
アコヤガイの稚貝が大量死した件について、専門店の目線から解説させていただきます。
1. 概要
- 2019年9月、愛媛で貝が死んでいるらしいと業界内で情報が流れる
- NHKのニュースでも取り上げられ、弊店にも問い合わせが来る
- 2021年に養殖場で使用される予定だった母貝がほぼ使えない状況
- 現状、2022年に流通する真珠の量が激減する(打開策なし)
<2023年8月追記>
この問題について最新情報をこちらにアップしました。ぜひご確認ください。
→アコヤガイ稚貝の大量死問題について<その後>
2. わかりやすく解説
真珠養殖に使われる母貝(アコヤガイ)は、人の手によって交配、育成され、これを仕事にしている方々のもとで適度な大きさになるのを待ち、全国へ出荷されます。多くの養殖場が愛媛産の母貝を使用しています。
その愛媛で、母貝となるはずだった稚貝が大量に死んでしまい、全滅に近い状況です。原因はわかりません。母貝を作る人たちは、原因がわからないまま、これまで通り作り続けるしかありません。なにぶん生き物ですから一日で急成長させるのは無理です。よって、死んでしまった稚貝(2021年に全国の養殖場で使用されるはずだった貝)の穴埋めをするのは無理で、2022年以降分がきちんと成長してくれるのを待つしかありません。
3. 養殖業者さんの心配ごと
母貝がないということは、養殖業者さんの仕事がないということです。2021年の仕事がないとわかっていて、2020年をどうするかというのは、養殖業者さんの事情によってそれぞれに違うと思いますが、後継者不足で、高齢で頑張っていらっしゃる方が多い業界でもあり、今年いっぱいでの引退を検討しはじめた方も多いようです。
2021年は厳しいが、2022年からまた頑張れるという見通しが立てば状況も変わってくるかもしれませんが、今回のことが一年前に予想できていなかったのと同様に2022年分の母貝(今は稚貝)が今後どうなるのかも、誰にもわかりません。
4. 加工業者さんの心配ごと
新珠があがってこないということは、加工業者さんも困ります。従業員を多く抱えた大手といわれる業者さんほど量をこなしているので、状況はより厳しくなるでしょう。
5. 販売業者さんの心配ごと
こちらも量販型の業者さんは困ることになります。
素材の量が減ることで、ネックレスの連相(揃い具合)をこれまで通りに維持することは難しくなり、きつめの調色をした製品(濃いピンク)に偏るかもしれないという心配もあります。
仕入価格の高騰も心配ですし、デフレから脱却できていない日本で値上げが受け入れてもらえるのか、心配です。国内の需要が伸びないままでは、加工業者さんが中国への輸出専業へと舵を切るのではないかという心配もあります。
それから、私は鑑定書を発行する会社で働いた経験がありませんので、実情はわかりませんが、鑑定書の発行が事業の柱なら、これもまた困ることになりますね。発行部数をなるべく減らさないように発行条件を下げるのか、これからの時代の新しい鑑定書を設定して、それをプッシュしていくのか、どちらかにしかならない気がします。
6. 消費者のみなさまへのお願い
ざっと現状を私目線でお話しさせていただきました。今後の真珠業界は生き残りをかけて荒れると思います。今よりマナーの悪いこともたくさん出てくると思います。そういった事態に巻き込まれないように、今後真珠の購入を予定していらっしゃるみなさまには、とにかくすぐにでも動いていただきたいのです。
忘れられがちなことですが、真珠は工業製品ではなく、出来上がったものを業界全体でやりくりして一年を過ごす、そういう商材です。これが売れているからといって、途中で追加生産できるものではありません。なにしろ母貝を育てるだけで年単位の時間がかかります。
「ご縁がなかったと思って次の入荷を待ちます」とは、お客様から度々聞かれるお言葉ですが、今後は「次の入荷」に期待ができない状況になります。生意気な言い方になり申し訳ございません。ぜひ、一日も早くご自分から「ご縁」をつかみにいらしてください。
よろしくお願いいたします。
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